England

国土

四つの非独立国であるイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドより構成される。主な民族は、イングランドを中心に居住するゲルマン民族系のアングロ・サクソン人、ケルト系のスコットランド人、アイルランド人、ウェールズ人である。他に、インド系、アフリカ系、アラブ系や華僑なども住む多民族国家である。

 

宗教

キリスト教(ほとんどが英国国教会)が約74.7%、イスラムが2.7% ヒンドゥー教徒1.1%

 

年表

※イギリスの生殖補助医療 関連年表

1945 非配偶者間人工授精が行われる
1978 世界初の体外受精児の誕生
1982 「人の受精および胚研究に関する調査委員会」(ワーノック委員会)設置
1984 ワーノックレポート(代理出産は非合法)
1985 コットン事件、代理出産取り決め法 (Surrogacy Arrangement Act)
1989 体外受精による代理出産の初成功(Bourn Hall Clinic)
1990 Human Fertilisation and Embryology Act (「1990年ヒトの受精及び胚研究に関する法律」)、親決定制度の創設
1991 人受精およひ胚研究認可庁 (Human Fertilisation and Embryology Authority; HFEA)設置
2003 「ヒトの受精及び胚研究(死亡した父)に関する法律」成立
2004 「新ヒト受精および胚研究法」(2005年施行)
2008 Human Fertilization and Embryology Act 2008
2014 イングランド、ウェールズ、スコットランドにおいて同性婚が認められる
2020 北アイルランドにおいて同性婚が認められる

 

 

代理出産

利他的代理出産が認められている。代理出産取り決め法により、営利目的の仲介行為が禁止されている(但しCOTSなどの非営利のあっせん団体が存在する)。代理出産契約は無効である。産んだ女性(代理母)を母親とし、依頼者は代理母の同意のもと、親決定(parental order)により子どもを養子縁組することができる。

 

生殖ツーリズム

イギリスでは利他的代理出産が認められ、国内でも相当数の代理出産が行われているが、インドやタイなど海外の商業的代理出産を依頼するイギリス在住カップルも多い。その理由は、海外では代理母を見つけるのが容易で待つ必要がないことや、イギリスでは代理母の翻意を認めているため、これを回避したいという欲求があるものと思われる。
海外代理出産は、代理出産子が依頼親のどちらかと遺伝的つながりがあり、代理母に対する支払いが合理的な費用支払いのみである場合にのみ認められる。Foreign & Commonwelath OfficeおよびUK Border Agencyから、海外代理出産時の手続きについてのガイダンスが公表されており、インドのメディカル・ビザ取得 についても詳細な説明がある。
Parental Orderを記録しているCAFCASSによれば、2016年、179件がUKで実施され、161件は海外で実施された(うち米国が78件、インドが63件、9件は不明)
2015年は海外で162件、国内で136件であった。(海外のケースではPOを申請しないケースが多数あると思われる)

 

精子提供

HFFAのライセンスをもつ75カ所のクリニックでDIが行われている(2013)。DIは4611サイクルが実施された(2013)。全サイクルの5%が、提供精子によるもの。新たにドナーに志願する人の数は増加しており、数はここ数年、新たなドナー登録は300-400人程度となっている。また、米国やデンマークから輸入も行われており、その数は最近2-3年で、100-200件の間で増加してきている。輸入精子が使われる理由は、ドナーのリクルートに伴う手続きが時間がかかり煩瑣であることが挙げられる。また、白人のドナーがほとんどで、他の人種のドナーは不足している。

2009 2010 2011 2012 2013
新規登録された精子ドナー数(子どもが生まれたドナー数) 438(139) 492(155) 541(180) 631(169) 586(146)

 

卵子提供

HFEAのライセンスをもつ77カ所のクリニックで卵子提供が行われている(2013)。全サイクルの4%が提供卵子によるもの。1%が提供精子と提供卵子、胚提供によるもの。新たに卵子ドナーとして登録する女性は増加しており、2013年には1,000人を超えた。卵子提供の待機リストは短くなり、渡航治療の必要性も低下してきている。2013年、ドナーの55%は自分の子どもをもっていない女性となり、比率が逆転した。白人ドナーが圧倒的に多い。2013年は533件がエッグシェアリングを希望した。

2009 2010 2011 2012 2013
新規登録された健康なドナー(子どもが生まれたドナーの数) 623(353) 660(349) 815(490) 1005(545) 1103(500)
エッグシェアリング(子どもが生まれたドナーの数) 586(196) 601(213) 708(215) 629(211) 533(147)
1,209(549) 1,261(562) 1,523(705) 1,634(756) 1,636(647)

 

出自を知る権利

ワーノック報告書には、子が18歳に達するとドナーの民族的出自、遺伝的健康に関する基本情報にアクセスする権利を有するべきであると勧告されていた。90年のヒトの受精及び胚研究に関する法律(HFE法)には、法の施行後に生まれた18歳以上の子どもは、HFFAに申請し、自分が提供により生まれてきた子どもであるか否か、また、遺伝的親がいる場合には匿名のドナー情報の開示を求めることができる。1991年以降の配偶子提供の記録はHFFAに保管されている。情報提供に先だって、カウンセリングを受けることができる。16歳以上で結婚しようとする者は、近親婚にならないかどうか確認を求めることができる。1990年以前に生まれた子どもはドナー情報にアクセスできないため、ドナーリンクキングシステムが創設された。 (現在は閉鎖している)
HFE法は、2004年に改正され、2005年4月1日から、18歳以上はドナーを特定できる情報を得ることができるようになった。また、ドナーの側も提供から子どもが生まれたかどうか、子どもの人数、性別と生年を知ることができるようになった。ドナーから子どもの個人情報にアクセスする権利はない。2008年の改正により、2005年以前に提供したドナーは手続きにより匿名を廃止することができる。
2012年10月1日から、ドナー情報へのアクセス方法が変更された。

 

■精子・卵子・胚の提供による出生数

2005 2006 2007 2008 2009
提供精子によって生まれた子ども数 1,030 858 957 1,007 1,084
提供卵子によって生まれた子ども数 584 565 506 547 593
提供胚によって生まれた子ども数 76 76 64 82 79
1,690 1,499 1,527 1,636 1,756
体外受精+DIによって生まれた子ども数(donor conceptionによる子ども数割合) 11,949(14%) 13,159(11%) 14,167(11%) 15,561(11%) 16,394(11%)

 

LGBT

市民パートナーシップ登録をした同性カップルは生殖補助医療を受けることが認められている。代理出産の依頼や養子縁組の申請も可能である。
2004 年パートナーシップ法(Civil Partnership Act 2004)によりパートナーシップ関係を形成し、婚姻と実質的に同じ法的保護を受けられることとなっていたが、2013 年婚姻法(同性カップル法)(Marriage (Same Sex Couples) Act 2013)に より同性カップルの婚姻が合法化された 。
2008年法(年表参照)により、生殖補助医療の利用が同性カップルにも認められた。イギリスの法律では、子を分娩したものが自動的に母となり、パートナーも自動的に親となる。未婚、パートナーシップ未登録の場合はパートナーが親となることに双方が同意するという文書が必要。男性カップルの場合は、「Surrogacy Arrangement」をして、代理母が生んだ子を自分たちの子どもとする手続き「Parental Order」が必要となる。

 

公的給付

NHSでは体外受精サイクルの約40%がまかなわれている。あとの6割は、患者の私費でまかなわれている。

 

Link

Human Fertilisation and Embryology Authority; HFFA  Link

Human Fertilisation and Embryology Act 2008   Link

HFFA Code of Practice 2001  Link

Egg and sperm donation in the UK 2012-2013   Link

Donor conception: ethical aspects of information sharing   Link

Children and Fertility Court Advisory and Support Service (CAFCASS)  Link

英国の配偶子提供 (Dr. Leah Gilman)  Link

英国におけるゲイのための代理出産サポ ートグループ(Mr. Michael Johnson-Ellis)  Link

代理出産は究極の人助け〜イギリス最初の代理母として〜 (Ms. Kim Cotton)   Link

米国と英国における代理出産: 元代理母としての経験から (Ms. Alyssa Martin)   Link

人工子宮と人工子宮が生み出す新たな存在 (“gestatling”).(Dr. Chloe Romanis) Link

配偶子提供が織りなす「親族の物語」(Dr. Petra Nordqvist)   Link

ゲイ男性による代理出産のノーマライゼーション (Dr. Marcin Smietana) Link

英国における体外受精をめぐる格差 (Dr. Anna Tippett) Link

 

文献

Horsey, K.2015 Surrogacy in the UK: myth busting and reform’ report on the surrogacy UK working group on surrogacy law reform.  Link

Jadva, V., et al. 2021 Cross-border and domestic surrogacy in the UK context: an exploration of practical and legal decision-making. Human Fertility 24(2):93-104. Link

Michael Wells-Greco 2013 United Kingdom. Katarina Trimmings and Paul Beaumont(ed).International Surrogacy Arrangements. Oxford and Portland, Oregon. Link

家永登 2017「代理母による出生子の法的親子関係—最近のイギリスにおける“親決定”裁判例を中心に」『専修法学論集』第130号、1-57頁  Link