Mexico

国土

北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家である。首都はメキシコシティ。1つの連邦区(連邦直轄地区)と、31の州に分かれる。公用語はスペイン語。先住民族の65言語(ナワトル語、サポテカ語、マヤ語など)も話されている。総人口は約1億2千万人。

 

宗教

宗教はローマ・カトリックが82.7%、プロテスタントが9%、その他(ユダヤ教、仏教、イスラーム教など)が5%である。

 

政治・経済

立憲民主制による連邦共和国。一人あたりのGNIは9,380ドル。1994年のNAFTA発効以降、米国との経済関係が強まり、輸入全体の約44%、輸出全体の約82%を米国が占める。

 

年表

メキシコの生殖補助医療 関連年表

1985-6 初めての体外受精クリニックがMexico city, Monterrey, Nuevo Leonに設立される
1988 体外受精の初成功
1997 民法の改定により代理出産が合法化される(タバスコ州)
2008 初めての代理出産子が生まれたことが報告される(タバスコ州)
2011 カンクンに初めてのIVFクリニックが設立される(IREGA clinic)
2013.05 民法の改定案がMensez議員より出される(タバスコ州)(依頼者および代理母はタバスコ州住民に限られる)
2015 代理出産が合法化される(シナロア州)(依頼できるのはメキシコ人のみ)
同性婚が認められる
2015.10 PRI党のMeloy Romero Celis議員が、代理出産を罰則付きで禁止することを提言(タバスコ州)
2015.12 外国人とゲイカップルに対し代理出産の提供を禁止する法案が20対9で可決される(タバスコ州)
2016.01 外国人とゲイカップルに対し代理出産を禁止する法律が制定される(タバスコ州)
2016.11 議会で外国人に対する代理出産を禁止する発議がなされる(タバスコ州)

 

メディカル・ツーリズム

メキシコ政府は、米国南部や中米周辺国からの医療ツーリズム拡大による経済振興を推進している。JCIの認証を受けた病院が8施設ある。医師や病院スタッフは英語を話せるため英語圏からの患者が多い。

 

体外受精

50箇所以上の体外受精クリニックがある。2013年の統計によれば、29施設で7,204サイクルの体外受精とICSIが行われた。1988年2月24日にCarlos EstebanがGIFTにより誕生、Andreaが体外受精により3月23日に誕生した。
2011年に設立されたIREGA clinicでは、メキシコ初の体外受精に成功したことを謳っている。メキシコ全州で2010年に4,449サイクル実施され、1990年-2011年までに体外受精で生まれた子どもは15,140人いるとされる。

 

法律

1999年に、生殖補助医療について初めての法案が緑の党から出され、以降、2012年までにさまざまな政党から20もの法案が提出される。
2000年にCENATRA(National Transplant Centre)が設立され、National Transplant Registryを運営し、臓器提供や細胞、組織の提供について管理している。ただし、情報は必ずしも厳格に管理されているわけではない。
2001年にCOFEPRIS が設立され、臓器や組織、細胞を扱う医療機関にライセンスを付与している。現在52施設の不妊治療施設が登録されている。
生殖補補助医療についての規定があるのは、Aguascalientes, Colima, Morelos, Sonora州であり、Tabasco州で代理出産について規定がある。Queretaro州で胚提供について規定がある。Coahuila州では、胚を使った研究や凍結は禁止されている。

● Coahuilad州
Civil Code489条、491条 には、代理出産契約には強制力がないこと、そして、代理出産の場合でも産んだ女性が法的母親となることが記されている。

● Queretaro州
Civil Code 400条に代理出産を禁止する条文がある。

● Tabasco州
Civil Code 92条に代理出産に言及がなされている。surrogate motherとは代理母の卵子を使用したもので、substitute gestational mother は代理母の卵子を使用しないタイプを指す。いずれのタイプでも親権は依頼した女性に認められる(347条)。ただし、代理母の卵子を使用した場合は、依頼女性は子供を養子にしなければならない。

● メキシコシティ
代理出産法が審議されている。現在の法のもとでは、産んだ女性が母親であり、代理出産は禁止されていると考えられる。また、金銭的対価をもらって妊娠出産すると処罰される。代理出産法は2010年11月30日にLegislative assembly of the federal districtを通過した。

 

代理出産

タバスコ州の民法で1997年から代理出産が法制化されていた。利他的代理出産が認められている(但し、支払いについての規定はなく、実質的に商業的な形で実施されていた)。代理母の卵子を使用することは禁止されている(代理母は“gestational
substitute mother”と呼ばれている)。代理母はタバスコ州で出産しなければならない。依頼者の婚姻状態や性的志向での差別はなく誰でも依頼者になれる。代理母は妊娠中から子どもに対する権利を持たない。タバスコ州民法92条によれば、代理母が妊娠した時点で届け出れば、依頼親は、子どもの正式な親となることができる(依頼者の名前が出生証明書に記載される)。民法347条によれば、代理母が受胎した瞬間から法的に親であるとみなされる。347条によれば、代理母の卵子を使用していなければ依頼した女性が母親となる(提供精子と提供卵子を使用しても可)。
IVFクリニックがあり、外国人にとって快適なリゾート地でもあるキンタナロー州・カンクンで代理母への胚移植が行われ、その後、代理出産が合法であるタバスコ州で出産が行われるケースが多い。
2013年5月にタバスコ州議員から民法の改正案が提出された。代理母の権利や子どもの福祉を考慮することや、依頼者や代理母はタバスコ州住民に限られるとの内容を含んでいる。

女性活動家らはかねてより、代理出産は女性と子供の人権を侵害するものであるとして反対してきたが、2015年11月23日にタバスコ州議会において外国人による代理出産禁止の議案が提出され、12月14日に可決された。翌1月に法律が制定された。これにより、1)依頼できるのはメキシコ人の異性愛カップルのみ、2)利他的代理出産のみ、3)依頼女性の年齢は25歳から40歳までで、子どもが産めないことを医学的に証明できること、4)代理母は25-35歳まで、などの条件下で行われることになった。

2013年にシナロア州で代理出産が合法化され、利他的代理出産のみ認められ、裁判所の許可を得て実施、州内に住む異性愛カップルのみが利用できる。メキシコシティでも合法化に向けた議論が行われている。キンタナロー州、コアウィラ州では代理出産は禁止されている。

 

精子・卵子提供

法律がないため、配偶子提供は容認されている。着床前診断による子どもの男女産み分けも可能である。ドナーは一般に匿名で、子どもの出自を知る権利は認められていない。

 

アクセス権

性志向や人種・宗教による差別が禁止されている。独身や同性愛者も体外受精・配偶子提供、代理出産へアクセスすることができる(タバスコ州では禁止)。2007年、高裁で同性婚と同性カップルによる養子を認める判決が出された。

 

Link

Regulation of the General Health Law on Scientific Research 1987  Link

Civil Code for the State of Tabasco (Código Civil para el Estado de Tabasco) Link

Associacion Mexicana de Medicina de la Reproduccion, A.C. Link

GIRE  Link

スペインとメキシコの卵子提供 (Dr. Laura Perler)  Link

生殖の生命倫理と生殖補助医療:生殖カウンセラーとして (Dr. Ana Violeta Trevizo) Link

 

文献

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