Philippines

国土

面積298,170平方キロメートル。7,641の島々がある。人口1億903万5,343人(2020年フィリピン国勢調査)。首都はマニラ。

 

メディカル・ツーリズム

近隣のアジア諸国の中で、フィリピンはメディカル・ツーリズム産業の着手に出遅れた。フィリピンが、雇用の促進と外貨獲得のためにメディカルツーリズム・プログラムを制度化したのは2004年である。観光省によると、2006年から2007年にかけてのメディカル・ツーリズム産業の収益は3億5000万ドル、2009年にフィリピンを訪れた患者は約10万人。患者一人につき2000ドル以上の外貨収入があった計算になる。しかしこれは目標を大きく下回る数字。政府はインド、タイ、シンガポール、マレーシアに追いつこうと、官民一体で積極的に市場開発に乗り出している。2010年には、病院、温泉施設、個人病院、信仰療法士などが提携してHEAL Philippines(Health and Wellness Alliance of the Philippines)が結成された。人気は美容整形、近視矯正、歯科矯正で、近隣諸国と比べて安く受けられる。しかし、美容系の治療ではなく通常の医療処置では、タイやインド、マレーシアより高くなる可能性もある。外国の医療保険を使える認可病院を増やすことが現在の課題である。フィリピンでは、この認可病院が現在ようやく3施設になった(St. Luke’s Medical Center が2003年に、The Medical City が2006年に、Chong Hua病院が2009年に認可された)。患者の内訳は、海外在住のフィリピン人に加え、一次市場として中東と太平洋諸島系の国々、二次市場としてオーストラリア、日本、韓国、台湾、ヨーロッパの割合が増えている。メディカル・ツーリズムでは、外貨獲得に加え、国内の雇用の促進と医療の底上げも期待される。低価格の医療、英語の話せる医療従事者、豊富な観光資源を合わせ持つフィリピンの潜在力は高いといえる。

 

ガイドライン・法案

フィリピンでは、最先端の生殖補助医療を行う病院も増えつつあるが、ART関連の法律はできていない。1987年のFamily Code 164 条で、人工授精で生まれた子供を夫婦の嫡子とみなす、と規定しているのみである。高度生殖補助医療で生まれた子供の地位などについて争われた場合には、人工授精しか想定していない不十分な法律と現実のギャップを、裁判所が埋めるという形になる。2010年に出された法案” The Reproductive Health and Population and Development Act of 2010″ も、家族計画の内容が中心で、ARTに特化した規定はない。

※フィリピンの生殖補助医療 関連年表

1987.07 Family Code 164条で人工授精児の法的地位を規定
1996 フィリピン初の体外受精児の誕生
2005 ガイドライン(代理出産の禁止、クローニングの禁止など)
2006 代理出産禁止法案を上院が提出
2008 マレーシア人とデンマーク人のゲイカップルが代理出産を依頼し、フィリピン人代理母が出産したことが国内初の代理出産例となる。
2009 シンガポールの代理出産業者によるフィリピン女性斡旋が報じられる
2012.09 香水などのブラントを販売する億万長者のJoel Cruzがロシアで代理出産を依頼し子どもを得た
2012 性と生殖に関する健康法(Reproductive Health Law)が可決
2016.05 59歳の女優Vicki Beloが2015年3月に歯科医師の夫との間に代理出産で女児を得ていたこを公表
2017.01 フィリピン人女性4名が代理母になる目的でプノンペンに向かおうとしてフィリピン当局に勾留される

 

代理出産

フィリピンでは今のところ代理出産に関する法律はなく、ガイドラインで禁止されているのみである。法が未整備なので、代理出産契約は正式なものとみなされないリスクが関係者に生じる。2006年、代理出産を禁止する法案が上院から出されている。

 

卵子提供

卵子提供を規制する法律はなく、フィリピン女性の卵子は世界中で取引されている。

 

PGD(着床前診断)

法律やガイドラインでPGDによる性選択の禁止を明記する国が多い中、フィリピンではPGDの使用に関する規制は特に存在しない。

 

カトリックとIVF

フィリピンではカトリック教会の影響力が強く、国民生活の全般に対し発言力を有している。許されるのは夫の精子を用いた人工授精までで、配偶子を女性の体の外で操作する体外受精は、カトリックの考え方に反する。中絶は不可能であるため、2-3個の移植により多胎妊娠となった場合は海外で中絶をうけざるを得なくなる。また、体外受精に伴って生じる余剰胚の存在は、フィリピンのカトリック教会にとっても大きな懸念材料となっている。余剰胚が生じにくい自然周期を利用した方法が、受け入れられていく可能性がある。

 

宗教

全人口の90%以上を占めるキリスト教のうち、カソリックが83%、プロテスタントが9%を占める。その他イスラム教が南部を中心に5%、仏教などが3%。

 

リプロダクティヴ・ヘルス

フィリピンではローマカソリック教会の影響が強く、避妊や中絶などもよくない行為とされてきた。厳しい中絶禁止法のせいで、病院での安全な中絶が行われず、年間90,000人の女性が中絶の合併症を患い、1,000人が死亡しているという。2010年に、避妊や中絶、生殖技術に関する項目を含むreproductive health lawの法案が出されたが、カソリックから反対が出ている。

 

社会的問題

代理出産を禁止しているシンガポールを拠点にした仲介業者Asian Surrogateが、フィリピン女性を代理母として、外国人カップルやゲイカップルにあっせんしていることが報じられた。フィリピン女性が国外に出稼ぎに行き代理出産するケースもある。フィリピンに法律がないため、貧しいフィリピン女性が卵子ドナーや代理母のターゲットにされ、仲介業者が利益を得ている。また、費用対効果の高い裕福層や外国人のみに医療資源が提供される問題もある。他のメディカル・ツーリズム推進国と同様、フィリピンもトリクルダウン仮説を採用している。これが貧富の拡大をさらに招く可能性がある。

 

日本からの渡航治療

日本からフィリピンへの渡航治療としては臓器提供がよく知られている。しかし、渡航不妊治療の数については不明である。貧しいフィリピン女性が卵子ドナーや代理母として国内外の依頼者によって様々な形で利用される事態が生じうることは容易に予測できる。

 

参考文献

Donato Espino 2012 The appreciation of Surrogate Mothers in the Phillipine legal system. AUSL Tech&Law. Link

Jesusa R. Lapuz 2012 ART (Assisted Reproductive Technology) and Its Legal Innuendis: A Challenge for a Statutorial Reno. Link

Samson GM, Almeda LA, Vera MTR. 1998 First test tube baby in the Philippines. Philippine Journal of Obstetrics and Gynecology 22(2):67-69. Link

 

Link

Philippine Council for Health Research and Development, Department of Science and Technology: National Ethical Guidelines for Health Research. Manila: Department of Science and Technology; 2006(⇒2001).  Link

Philippine Society of Reproductive Medicine 2016 Guidelines on the Ethics and Practice of Assisted Reproductive Technology and Intrauterine Insemination.  Link

Philippine Society of Reproductive Medicine   Link