South Korea

国土

面積約10万平方キロメートル。人口は約5,156 万人(出典:2023年、韓国統計庁)。首都はソウル。

 

メディカル・ツーリズム

韓国では、メディカル・ツーリズムのための徹底した対応策を講じている。政府は、2009年5月から治療目的で外国人が韓国に滞在するための「メデイカルビザ」の発給を始めた。90日から1年まで滞在でき、ケースによっては延長も可能。医療法の施行規則も改正し、外国人患者を誘致する医療機関には登録を義務付け、入院病床の20分の1を外国人向けに充て、診療科目毎に1人以上の専門医を置くように定めた。外国人患者への病院の斡旋などに携わる業者には、不手際の発生に備えて保険金額1億ウォン(約760万円)以上の保険への加入を求める。韓国当局は、アフターケアーや医療事故のへの対処を睨んで、第三者を交えてトラブルを仲介する制度を外国人向けにも整えた。旅行業者は、国ごとのニーズに合わせ、通訳の用意や、プチ整形や健康診断に観光ツアーを組み合わせるパッケージ商品の開発を進めるなど、官民一体でメディカル・ツーリズムが推進されている。

 

ガイドライン・法案

韓国で2005 年から施行された「生命倫理法」では、IVFクリニックを国の認可制とする他、精子・卵子の売買と斡旋を禁止することが規定された(生命倫理法第13
条)。しかし代理出産の是非や、第三者からの提供を伴う生殖補助医療の許容条件などは、医師や女性団体などで意見が対立したままであり、規制には至っていない。大韓婦人科学会からは1999年にガイドライン「補助生殖術倫理指針」が出されている。

※韓国の生殖補助医療 関連年表

1985.10 ソウル大病院で韓国初の体外受精児誕生
1986 『シバジ』公開
1986 車(チャ)病院で体外受精型代理出産実施
1987.10 車病院で韓国初の卵子提供、卵巣のない女性に卵子提供し妊娠成功
1988.06 車病院で早期閉経女性にアジア初の姉妹間卵子提供
1988.07 ソウル大病院で姉妹間卵子提供プログラムの開発
1989.10 第一病院で親族間代理母妊娠3例公表
1993.05 大韓醫學協會「人工受胎倫理宣言及び施術指針」公布
1994 韓国初のICSI児の誕生
1999.10 韓産婦人科學會「補助生殖術倫理指針」公布
2001.01 ソウルにて卵子提供仲介会社DNA bank設立
2001.10 大韓醫師協會「醫師倫理指針」公布
2003 「生命倫理法」制定
2005.01 「生命倫理法」発効、卵子の有償提供禁止
2005.09 DNA bank日本人への海外斡旋卵子卵販売摘発
2005.11 黄教授等の売買卵子入手発覚、「黄禹錫事態」勃発
2006 医師協会の医師倫理指針より、商業的代理出産禁止項目が削除
2007.07 「ベトナム人シバジ」ソウル家裁に控訴
2008 「生命倫理法」改正、卵子ドナーへの実費支給承認
2011.02 保健福祉部、外国人間卵子売買の規制強化通達

渕上(2012),(2013)などより改変

 

代理出産

代理出産に対する法規制はなく、水面下で行われているのが実情。韓国にはシバジ(自然生殖により嫡子を設ける婚外出産契約)という慣習が歴史的に存在し、代理出産はこのシバジを連想させるものとして否定的感情を抱く国民も多い。代理出産の年間実施件数は約100件に上ると推定されているが、正確な統計はない。生殖補助医療の発達により、代理出産の主軸は、これまでの親族間の無償の代理出産から、非親族による商業的代理出産へと移行してきている。もし商業的代理出産のみが法律で禁止されれば、親族による代理出産が再び増加する可能性もありうる。

 

卵子提供

卵子提供は、大韓婦人科学会のガイドラインで認められている。対象となるのは妊娠の見込みのない法律婚の夫婦が双方同意した場合。提供者は匿名で親権はない。精子提供も同じ条件でおこなわれる。

 

韓国におけるART治療

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
IVF 21,154 32,783 30,507 30,234 33,214 39,744 45,226
IUI 28,721 31,233 32,719 36,388 34,554 44,802 41,217
精子提供によるIVF 207 275 311 430 564 666 594
卵子提供によるIVF 213 271 303 318 334 490 478
精子提供によるIUI 551 563 556 432 285 243 129

※2008年における登録は142施設

 

PGD(着床前遺伝子診断)

「生命倫理法」には、特定の性を選択する目的で精子と卵子を選別し受精させる行為を禁じているが、PGDに関する直接的な記述はない。ただし、ヒト胚に対する遺伝子検査は遺伝子疾患の診断に限るという規定があり、PGDもここに含まれる。

 

宗教

統計庁によると、2005年現在、韓国の宗教人口は全人口の約53%にあたる2,497万人。その内訳は、仏教22.8%、プロテスタント18.3%、カトリック10.9%、儒教0.5%、園(ウォン)仏教0.2%。その他0.6%にイスラム教や天道教、韓国正教会などが含まれる。儒教文化で知られる韓国だが、儒教は宗教というより、一種の生活習慣、または社会常識として国民の意識に定着しており、生殖技術のあり方にも影響を与えている。

 

社会

伝統的な儒教文化が根付いた韓国社会では、男系の家系を存続させる義務が社会的通念となっている。そのため、生殖補助医療の広まりは急速で、男児選好に利用されることが多かった。人口の男女比は1990年に118:100と均衡が目に見えて崩れたが、政府による選択的中絶の禁止で2004年には109まで下がった。

 

社会的問題

2005年末、ソウル大学の教授であったファン・ウソクのES細胞論文が捏造であったことが発覚、その後、研究費等横領・卵子提供における倫理問題が浮上した。女性129人から2061個の卵子を集めていたことが、韓国社会だけでなく世界で問題となった。

 

日本からの渡航治療

近年日本の不妊カップルが韓国に不妊治療のため渡航する現象が報告されている。この要因としては、渡航の容易さ(日本から約2時間で訪れることができるため、日帰りでの検査も時として可能である)が一番に挙げられる。一回分のIVF費用を比較すると、日本の平均4000$US(約40万円)に対し韓国の平均1,880 $USと、半分以下。卵子提供や代理出産を行なうにも、費用はアメリカの半分で済み、代理母や卵子提供者は日本より探しやすく、外見の類似から卵子提供に抵抗が少ない。韓国は不妊治療サービスを受けられる対象国になりつつある。日本人カップルが日本人卵子ドナーを連れて韓国へ渡航し、卵子を採取する現象も報告されている。配偶子の売買を禁じる「生命倫理および安全に関する法律」が2005年1 月1 日から施行されたことにより、11 月に生命倫理法違反で卵子売買の斡旋業者が摘発され、その捜査過程で斡旋業者が日本の不妊カップル向けに代理懐胎のサービスを行っていたことが明らかになった。配偶子の売買には処罰規定があるが、商業的代理出産サービスの斡旋については今のところ適用できる規定がないのが実情である。

 

文献

金 成恩 2011「代理懐胎問題の現状と解決の方向性(1)-日韓の比較を通して-」『立命館法学』336号、1040‐1080ページ。Link

金 成恩 2011「代理懐胎問題の現状と解決の方向性(2)-日韓の比較を通して-」『立命館法学』337号、1431‐1523ページ。Link

金 成恩 2012「代理懐胎問題の現状と解決の方向性(3・完)-日韓の比較を通して-」『立命館法学』341号、357-453ページ。Link

Jung-Ok-Ha 2012 Current issues on a standard for surrogatr pregnancy procedures. Clin Exp Prepro Med. 39(4):138-143.  Link

Young-Gyung Paik 2010 Return to the Shibaji? Rethinking the Issue of Surrogacy in Contemporary South Korea. Asian Women 26(3): 73-92. Link

 

 

Link

「補助生殖術勧奨同意書様式および参考事項」(第1版) 2011 (渕上恭子訳)   Link

「大韓産婦人科學會補助生殖術倫理指針」(第6版) 2011 (渕上恭子訳)  Link