Israel
メディカル・ツーリズム
イスラエルは近年、渡航目的国として急成長している。イスラエルがメディカル・ツーリズムによって得る収入は年間5億シュケルにのぼる。公立病院、私立病院ともに外国患者を受け入れている。Sheba Medical Center、Ichilov Hospital、Hadassah University Hospital、Assutaなどが有名。年間推定30,000人の患者がイスラエルに渡航治療に来ている。旧ソ連や地中海沿岸部からの渡航患者が多い。癌治療の技術が高く、メディカル・ツーリズム市場の80%を占める。
| 年 | 月 | 出来事 |
|---|---|---|
| 1979 | 非配偶者間人工授精(DI)が公式に開始される(15の精子バンク) | |
| 1982 | 初めての体外受精が行われる | |
| 1986 | 初の卵子提供による出産が報告される | |
| 1987 | 4 | "Public Health (In Vitro Fertilization)Regulation 5457-1987"が公布 |
| 1996 | "Agreement for the Carriage of Fetuses(Approval of Agreement and Status of the New Born)Law, 5756-1996" (のちに"Surrogacy Agreement Law")により、代理出産の合法化 | |
| 1998 | イスラエル初の代理出産による第1号の誕生 | |
| 2000 | 卵子の盗難事件が発覚 | |
| 2009 | ルーマニアで違法な卵子売買に絡んでいたとしてイスラエルのクリニックが捜査を受ける | |
| 2010 | 9 | "Ova Donation Law, 5770-2010"が議会で可決 |
| 2011 | 1 | 保健省の通達"Freezing of Ova for Preservation of a Woman's Fertility,Directive No.1/2011"が出される |
| 2012 | "Recommendation of the Public Committee for the Examination of Legislation of the Topic of Fertility and Birth in Israel 2012" | |
| 2012 | 5 | イスラエル保健省の代理出産承認委員会が同性カップルに代理出産の利用を認めるよう勧告 |
| 2013 | 12 | イスラエル外務省によりタイ代理出産に関する渡航警告が発せられる。タイ人代理母の代理出産子の帰国が困難に |
| 2014 | 1 | 内閣がゲイ代理出産を承認(その後、廃案) |
法律
イスラエル国民1人あたりのIVF実施回数は世界的にもトップで、その割合はアメリカの13倍である。ARTに対する国からの助成が充実している。ARTに関しては、1987年のIVF法、1996年の代理出産法、2010年の卵子提供法、2011年の保健省通達、2012年の保健省勧告が出されている。
- Public Health (In Vitro Fertilization) Regulations 5747-1987 (“IVF Law”)
- Freezing of Ova for Preservation of a Woman’s Fertility, Directive No. 1/2001, MINISTRY OF HEALTH (Jan. 9, 2011)
- Ova Donation Law, 5770-2010, SH No. 2242
- Agreements for the Carriage of Fetuses (Approval of Agreement and Status of the Newborn) Law, 5756-1996 ( “Surrogacy Agreements Law”), SH No. 1577
- Recommendations of the Public Committee for the Examination of Legislation of the Topic of Fertility and Birth in Israel 2012
代理出産
1996年に出されたSurrogacy Arrangement Lawにより、保健省の代理出産承認委員会からの承認を受ければ合法的に代理出産契約を結ぶことができる。1996年から2009年までに655件の申請があり、82%が認められた。シングルや同性愛カップルによる代理出産は認められていない。代理母は原則として独身の36才までの女性(のち38歳まで)、独身または離婚した女性に限られる。依頼者(夫)の精子を使うこと、代理母の卵子は使用しないこと、代理母と依頼者が同じ宗教であることなどが規定されている。代理母は出産後、ソーシャルワーカーの立会いのもとできるだけすぐに子どもを依頼者に渡さなければならない。心変わりは原則として認められていない。海外代理出産の場合、代理母が法律上の母となり、出産後、依頼者が養子縁組することが定められていたが、テル・アビブ家庭裁判所が2012年3月に出した判例により、依頼女性の卵子を使用した代理出産であれば、依頼女性が法的な母親になることが認められた。 シングルの男女や同性カップルだけでなく、国内代理出産を利用する資格を持つ異性カップルの間でも、海外代理出産の利用は増加している。国内の代理出産件数が2011年49人、2012年41人と停滞気味なのに対し、海外で生まれた代理出産児のDNA検査申請件数は2011年93件、2012年126件と急増している。主要な渡航先はインド、アメリカ、グルジア、アルメニア。 同性カップルの代理出産へのアクセスを求める運動は活発で、2010年にイスラエル人ゲイカップルがエルサレム家庭裁判所の対応で帰国トラブルに巻き込まれた際には激しい抗議運動が起きた。2012年5月にはイスラエル保健省の代理出産承認委員会が同性カップルに代理出産の利用を認める勧告を出した。
卵子提供
2010年にOva Donation Lawが可決され、イスラエルの卵子提供規制は大幅に緩和された。イスラエルでは、ユダヤ教の女性が非ユダヤ教徒から卵子提供を受けることを原則禁止とされているのが特徴である。採卵はこれまで不妊治療者にしか認められていなかったが、提供目的でも認められることとなった。レシピエントの年齢は18歳から54歳まで。独身女性でも卵子提供を受けることができ、産んだ女性が母親となる。ドナーは20歳から35歳までで、匿名提供を原則とする。ユダヤ教徒のドナーは独身でなければならない。提供は6か月以上の間隔をあけ、全部で3回まで認められる。1人のドナーが提供できるのは3人まで。レシピエントはドナーの宗教を事前に知ることができる。非ユダヤ教徒の卵子で生まれた子供をユダヤ教徒にするには改宗儀式を必要とする。卵子提供で生まれた子供の記録は保存され、18歳になれば自分が卵子提供で生まれたかどうか、婚約者との血縁関係の有無を照会できるが、ドナーの個人情報は知ることができない。ドナーには補償金19,000シュケルを国が支払う。ルーマニアに卵子を求めるケースも多い。
精子提供
人工授精はPublic Health(Sperm Bank)Regulations 1979によって規制されている。1989年の改正によって、精子提供は精子バンクを通じて行われなければならないとされた。精子提供に関する最新のガイドラインは 1992年の”Rules as to the Administration of Sperm Banks and Guidelines for Performing Artificial Insemination 34/92"である。精子バンクの運営は、健康省の認可が必要である。独身女性でも精子提供を受けられるが、認可が必要である。1990年以降、新鮮精子を用いることは禁止されている。ドナーにはコードが振られ、匿名である。独身でも既婚でもドナーになることができ、年齢制限はない。支払いについての規定はない。提供回数や妊娠した人数の制限はない。イスラエルでは、養子の場合は、オープンにすることが好まれるが、AIDの場合は秘密にされる傾向が強い。子どもにドナーの情報が公開されることはない。ドナー情報は他の医療記録と同様、7年間保管されるのみである。ユダヤ教の考えでは他人の精子を用いて妻が妊娠することは認められない。精子提供により、将来、近親婚も懸念されるため、非ユダヤ教徒のドナーを使うことを認めるラビもいる。
死後生殖
死後生殖が認められている。本人が生前拒否していたという明確な証拠がない限り、親族が裁判所で認可を受ければ、死後に配偶子を用いて生殖に用いることができる。生前にパートナーがいなかった人間の精子や卵子の使用も容認されている。2002年に軍に従事している際に死亡した男性の精子を用いることの許可を求めていた両親の訴えが2007年に認められ、一人の女性が出産した。この例では本人の明確な意思は残されておらず、両親の強い希望により実現した。2012年以降、書面による本人の明確な意思が確認されれば、裁判所の判決を必要とせずに死後生殖が認められるようになった。2005年、弁護士のIrit Rosenblum氏によってBiological Will Bankが設立された。死後生殖の意思の有無について書面で残すことができるシステムで、約1,000名が登録している。
性選択
イスラエルでは、医学的理由による性選択の他に、同じ性別の子供を4人以上持つ親に対し、社会的理由による性選択を認めている。PGDを希望する親は、保健省の委員会に申請後、自費でPGDを利用することができる。
ART統計
| 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 総治療サイクル | 20,886 | 22,449 | 23,828 | 24,995 | 25,552 | 26,679 | 29,196 | 31,978 | 34,538 | 38,284 |
| 胚移植サイクル | 18,377 | 19,805 | 21,079 | 22,295 | 22,589 | 23,521 | 25,544 | 28,837 | 29,961 | 33,066 |
| 妊娠数 | 5,272 | 4,496 | 5,318 | 5,871 | 6,473 | 6,898 | 7,372 | 7,765 | 8,123 | 8,796 |
| 生児出産数 | 3,734 | 3,584 | 3,576 | 3,910 | 4,298 | 4,585 | 4,683 | 5,328 | 5,612 | 5,709 |
| ARTで生まれた 子どもの数 |
4,792 | 4,465 | 4,414 | 4,772 | 5,229 | 5,603 | 5,713 | 6,606 | 6,752 | 6,901 |
| 代理出産で生まれた 子どもの数 |
10 | 16 | 13 | 27 | 25 | 36 | 26 | 30 | 46 | 49 |
対象24施設(2012年)
宗教
ユダヤ教(75.4%)、イスラム教(17.3%)、キリスト教(2.0%)、ドルーズ(1.7%)(2011年イスラエル中央統計局)。イスラエルの国内法は「ユダヤ教徒を母として生まれた者」をユダヤ人、ユダヤ教徒と認定している。卵子提供の規制緩和も、異宗教間の卵子提供を禁止することでラビ(ユダヤ教の指導者)たちの支持を得られた。
社会的問題
イスラエルがメディカル・ツーリズムのハブ国となるべく国を挙げて力を入れている裏で、イスラエルの国民医療が空洞化する現象が起きている。国内の病院ベッド数の割合がOECD諸国で最も低いなど、渡航患者を受け入れる余地はないという意見は多い。
文献
Susan Martha 2000 Kahn Reproducing Jews: a Cultural Account of Assisted
Conception in Israel.Duke University Press.
Elly Teman 2003 The Medicalization of "Nature" in the "Artificial
Body": Surrogate Motherhood in Israel.Medical Anthropology 17(1):78-98
.
Weiss Meira 2005 The Chosen Body: The Politics of the Body in Israeli Society. Stanford University Press.
Daphna Birenbaum-Carmeli 2009 The Politics of "The Natural Family"
in Israel:State Policy and kinship ideologies. Social Science & Medicine.
69]:1018-1024.
Tsipy Ivry 2010 Kosher Medicine and Medicalized Halacha. American Ethnologist.37(4): 662-680.
Carmel Shalev, Gabriele Werner-Felmayer 2012 Patterns of globalozed reproduction:
Egg cells regulation in Israel and Austria. Israel Journal of Helath Policy
Research.1(15)
Lustenberge Sibylle 2013 Conceiving Judaism The Challenges of Same-Sex Parenhood. Israel Studies Review28(2):140-156.
Link
Freezing of Ova for Preservation of a Woman’s Fertility, Directive No. 1/2001,
MINISTRY OF HEALTH (Jan. 9, 2011) Link ![]()
Public Health (In Vitro Fertilization) Regulations 5747-1987, KT No. 5035 (“IVF Law”) Link ![]()
Agreements for the Carriage of Fetuses (Approval of Agreement and Status of the Newborn) Law, 5756-1996 ( “Surrogacy Agreements Law”), SH No. 1577 Link ![]()
Recommendations of the Public Committee for the Examination of Legislation of the Topic of Fertility and Birth in Israel 2012 Link ![]()
Ova Donation Law, 5770-2010, SH No. 2242 Link ![]()
Dr.Etti Samama へのインタビューLink ![]()
(2016/03/24 last updated)