Commercialization of Assisted Reproduction and Reproductive Tourism in the Globalized World: Ethical, Legal and Social Issues.

Singapore

メディカル・ツーリズム

シンガポールにはJCI(Joint Commission International Accredited Organizations:病院の質を保証する国際的な認定機関)の認証を受けた病院が多数ある。同国のヘルスケアシステムは、World Health Organizationの査定で1997年に世界第6位、アジアで第1位にランクインし、2000年には41万人、2006年には55万5千人の渡航治療者が訪れた。2003年には政府が、海外からのメディカル・ツーリズムの目的地としての発展を促すため、「シンガポール医療イニシアティブ」を立ち上げている。政府は2012年までに年間100万人を達成するという目標を掲げている。シンガポールの医療技術は近隣諸国との比較では抜きん出ており、臓器移植などの高度医療にも取り組んでいる。マレーシア、インドネシアなど近隣諸国の患者は高い医療水準を求めて、欧米諸国の患者は比較的安価な治療費を目当てにシンガポールに渡航する傾向がある。治療費の安いタイ、マレーシアとの競争は激化しており、政府はコスト競争力を高めるため、各病院の一般的な疾病の治療費用を公表している。

ガイドライン・法案

シンガポールの生殖補助医療には"Directives for Private Healthcare Institutions Providing Assisted Reproduction Services"(2006)というガイドラインが存在する。ARTを受ける条件、精子・卵子提供の条件などについて規定されている。例えば、代理出産は禁止、配偶子提供の商業的形態の禁止、胚移植数は通常3個まで、特別なケースでは4個まで許されている。

シンガポールの生殖補助医療 関連年表
出来事
1983     5 KK women's and children's hospitalで東南アジア初の体外受精児の誕生
1987     7 脳死の夫の子どもを産むため、妻が夫の睾丸を摘出し、話題となる
1988     4 シンガポール政府が世界初の卵子バンクの設立の準備を進めると発表
1989   世界初のSUZI(囲卵腔内精子注入法)による子供が誕生
1993   シンガポール初のICSI(顕微授精)児の誕生
1995   ARTで生まれた子供の法的地位を議論する委員会が組織される
1997   ARTで生まれた子供に関する報告書を厚生省分科委員会が出す
2001   厚生省が生殖補助医療サービスに関するガイドライン“Guidelines for Assisted Reproductive Services“を公表
2006   厚生省から生殖補助医療に関する指針“Directives for Private Healthcare Institutions Providing Assisted Reproduction Services. (CAP 248, REG 1)”が出される
2008   不妊治療に対する助成制度が導入される

 

体外受精実施件数・治療成績

1982年にKKH(KK women’s and children’s hospitals)で始まったIVFプログラムが成功し、1983年にシンガポールで初(アジア初)の体外受精児が誕生した。1989年には世界初のSUZI(sub-zona insemination)による子供が同国で誕生している。1993年にはアジア初の顕微受精(ICSI)が成功している。このように、シンガポールは常にアジアの生殖補助医療技術のトップを走ってきた。2004年、シンガポールの厚生省から"In-Vitro Fertilisation (IVF) in Singapore: Charges and Success Rates"が出された。それによれば、2002年にシンガポール国内で体外受精を行ったカップルは1569組。その70%は公立病院で治療を受けた。IVFクリニックは全部で7施設。施設ごとのIVF料金と成功率を一覧で見ることができる。成功率は16%-28%。

代理出産

代理出産は"Directives for Private Healthcare Institutions Providing Assisted Reproduction Services"(2006)によって禁止されている。女性が代理母になることも、カップルが代理母を探すことも禁止。医師が代理出産を手助けすることも違法である。しかし、シンガポールでの代理出産禁止に反対する声も高まっている。シンガポールの不妊カップルが、インドなど海外に代理母を求める動きが定着しつつあるからだ。シンガポールは、新生児死亡率と妊産婦死亡率を見ても世界で最も低い国々の一つであり、生殖医療システムの面でもトップレベルにある。ノウハウがあるのに代理出産を提供できないことに、医師から不満があがっている。

卵子提供

配偶子提供に関しては商業的な取引が一切禁止されている。卵子提供が必要な不妊患者は、例えば親族や友人など自分でドナー候補を見つけなくてはならない。このため国内ではドナー不足が深刻で、そうした患者は海外に卵子提供を求める選択をすることになる。卵子提供のドナーは18歳から35歳。一人のドナーからの提供による出産は原則3回までとなっている。

シンガポールにおけるART治療サイクル数
  2004 2005 2006 2007 2008 2009
ARTを受けた女性の人数 1,716 1,982 1,933 2,179 2,627 3,271
ARTで生まれた子どもの人数     717 802 927 1,158

対象7 (2004) - 10 (2009) 施設

 

PGD(着床前診断)

PGDによる性選択は伴性遺伝病の診断が必要な場合のみで、政府の許可が必要。性選択を目的とした精子選別技術の使用も禁止されている。

宗教

主な宗教は、仏教、道教、イスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教。仏教は、主に華僑系に信仰され、全人口の32.5%を占める。道教も華僑系に多く全体の約8%。イスラム教は、主にマレー系住民(但し、中華系・インド系も少なくない)により信仰され、全人口の約14%の信者を有する。ヒンドゥー教は、主にタミル系住民により信仰され、全体の約4%。キリスト教は民族にかかわらず信仰されており、全人口の15%程度の信者を有する。

社会

民族構成は中国系75%、マレー系14%、インド系9%、その他2%で、公用語は英語、標準中国語(北京語)、マレー語、タミル語の4ヶ国語。シンガポール社会は多言語・多民族・多文化国家である。このため、メディカル・ツーリズムにおいても、マレーシア、スリランカ、インドネシアなどの東南アジア諸国だけでなく、中国、中東といった周辺国からも多くの外国人患者が訪れやすい環境にある。 急速な少子化の進行が憂慮されており、2009年の出生率1.22から、さらに下降が予想されている。少子化対策として、不妊治療を必要とするカップルは政府による治療費の補助がある。

社会的問題

最近では、2010年にThomson Fertility Centreで精子の取り違えが起き、生殖補助医療が国内で話題になった。シンガポールの生殖補助医療で問題視されているのは、提供配偶子の不足である。国内の不妊治療センターのうち、公立病院3施設のみ(Singapore General Hospital、National University Hospital、KK Women's and Children's Hospital)が精子バンクを有している。ほか7施設の私立病院の患者も、この精子バンクを使用する。しかし、例えばKK Women's and Children's Hospitalに精子を提供したのは5年間で8人だけ。National University Hospitalでも年に1~2回の提供しかないという。提供は匿名である。競争率は8倍で、不妊カップルがドナーを選べるような状況ではない。結果的に海外の精子バンクに頼る不妊患者が多い現状を、よく思わない医師もいる。

 


参考文献

Heng, BC. 2006 Alternative solutions to the current situation of oocyte donation in Singapore. Reproductive BioNedicine, Online; 12(3):286-291.


Link

Directives for Private Healthcare Institutions Providing Assisted Reproduction Services / Licensing & accreditation Branch, Ministry of Health 2006 Link blank

(2013/12/17 last updated)
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