Commercialization of Assisted Reproduction and Reproductive Tourism in the Globalized World: Ethical, Legal and Social Issues.
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本プログラムは、将来、世界をリードすることが期待される潜在的可能性を持った研究者に対する研究支援制度であり、「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月30日閣議決定)において掲げられた政策的・社会的意義が特に高い先端的研究開発を支援することにより、中長期的な我が国の科学・技術の発展を図るとともに、我が国の持続的な成長と政策的・社会的課題の解決に貢献することを目的とします。

Outline

1978年、イギリスで世界初の体外受精が行われた。我が国では1983年に初の体外受精児が誕生した。以降、体外受精技術及びそこから派生した技術は、急速に社会に浸透している。2007年の我が国における体外受精による出生は約55人に1人となっている。これまで20万人以上がこの技術を用いて誕生したと推計される。今や、男女のカップルのうち、約10組に1組は不妊症といわれ、厚生労働省の推計では、2002年に不妊治療を受けた患者数は、約47万人いるとされる。昨今の晩婚化が、不妊患者数の増加に追い打ちをかけている。我が国では、少子化対策の一貫として、2004年より特定不妊治療費助成事業が開始されたが、不妊患者に対する支援は十分なものではない。また、我が国では、卵子提供や代理出産などの第三者が関わる生殖技術について法規制はなされておらず、日本産科婦人科学会などの専門職組織による自主規制に委ねられている。

近年、第三者が関わる生殖技術を利用するため、日本人がインド、タイ、マレーシア、韓国などアジア地域へ渡航治療する現象が見受けられる。これまで、卵子提供や代理出産など、国内での実施が困難な治療を希望する人々は、生殖ビジネスの先進国である米国へ渡航治療を行ってきた。米国でこれらを依頼する場合、費用が高額となり、従来は諦めざるを得なかった人々でもアジア等の新興国では安価で依頼できる。こうしたことが、生殖ツーリズムの新しい潮流が発生している理由の一つである。アジア地域への渡航治療をコーディネートする(と称する)日本の仲介業者によるホームページも数年前から出現している。日本以外の、ヨーロッパなどの先進国では、第三者が関わる生殖技術の実施やその商業的利用を、倫理的な理由で制限するか、禁止していることが少なくない。一方、新興国では規制が十分ではないため、技術利用に対して寛容な環境が形成されていることが多い。また、メディカルツーリズム振興策などにより、こうした規制格差や経済格差を、外貨獲得の好機として積極的に利用しようとする国もある。この結果、規制が厳しい国から寛容な国へ、あるいは、労働力が安価な国へと、身体利用の流れは世界的な規模で生じている。

2008年、インドで日本人男性が代理出産を依頼し、子どもが無国籍になったトラブルが世界中で報道された。これは、日本人による生殖ツーリズムの氷山の一角であるといえる。毎年何組の日本人が、どの地域へどのような理由や目的で渡航治療を行っているかは、不明である。こうした、日本人による生殖ツーリズムの実態を明らかにする必要がある。日本人による渡航治療の対象となっている国々で調査を行い、現地の医療事情や法的環境を検討することが必要である。そのうえで、これらの地域への生殖ツーリズムが、利用する側の人々にどのようなリスクをもたらしうるのか、利用される側の人々の権利の侵害や搾取は発生していないのかどうかなど、検討すべき課題は多い。生殖ツーリズムに関する問題を、倫理・法・社会・医療など様々な観点から、検討する。

新興国の急速な経済・技術発展とグローバライゼーションの波により、日本人が海外で医療サービスの受給者となる機会は今後ますます増えていくことが予想される。しかしながら、海外で治療を受けようとする不妊患者は、何ら指針やサポートがない状態に置かれており、大きなリスクと不安を抱えている。一方、生殖ツーリズムの促進は、社会的経済的弱者の搾取につながる可能性が大きい。生殖補助医療を、当事者である女性や子どもの視点から明らかにし、弱者を保護する施策を講じた上で実施するとが許容されるか否か、そして、当事者の幸福につながる技術開発の有り方を検討する必要がある。エンハンスメントや優生思想、人体の資源化の過度の進行を防止する工夫も必要である。今後の我が国における生殖補助医療の適正な実施に向けて、他国の動向や法規制の実施の是非も含めて注意深く検討し、どのような舵取りが必要かを考える。不妊患者への支援の充実や、不妊予防に向けた啓発活動を行う。不妊治療以外の選択肢を可能にする方策も必要である。少子高齢化社会に相応しい男女共同参画の在り方やそれを実現する社会設計の有り方について構想する。

生殖ツーリズムにおける「利用する側」と「利用される側」の実態解明

生殖ツーリズムにおける「利用される側」として、アジア地域の新興国を中心に、医療事情や法的環境などの実態調査を行う。「利用する側」として、国内の不妊患者の生殖ツーリズムに関連する意識や実態を調査する。「利用する側」/「利用される側」の双方の調査に基づいて、日本人による生殖ツーリズムの実態を包括的に明らかにする。

生殖ツーリズムに関する倫理的・法的・社会的問題(Ethical, Legal, and Social Issues; ELSI)の検討

医学、倫理学、法学、ジェンダー研究など、様々な観点から、生殖ツーリズムに関する問題点を抽出し、学際的に検討する(図参照)。

我が国の生殖補助医療の適正な実施に向けた提言

これまでの我が国における生殖補助医療に関する政府の委員会などでの議論の流れや結論を継承しつつ、今後の我が国における生殖補助医療の適正な実施に向けて、法規制の実施の是非も含めて検討する。日本以外の「利用する側」の国々が、生殖ツーリズムについてどのような議論を重ね、立法や政策的対応を行っているかも十分に参照する。

女性や子どもの視点から生殖補助医療の在り方について検討を加える

生殖補助医療は「利用する側」、「利用される側」、ともに女性に関わりが深い技術である。これらの技術が真に女性の幸福の増進につながるのかどうか、女性の視点から検討する。また、技術によって生を受ける子どもの立場からの検討も行う。不妊患者の支援の充実や、不妊予防に向けた啓発活動を行う。不妊治療以外の選択肢を拓いていく方策を検討する。少子高齢化社会に相応しい男女共同参画の在り方やそれを実現する社会設計の有り方について考える。

(課題番号 LZ006)

生殖補助医療はどこまで許されるのか?-理論的・法的・社会的問題(ELSI)から-

不妊問題における入口と出口の制御

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