Commercialization of Assisted Reproduction and Reproductive Tourism in the Globalized World: Ethical, Legal and Social Issues.

Indonesia

メディカル・ツーリズム

インドネシア人にとってメディカル・ツーリズムは渡航治療に行く側として、より身近である。一般的な渡航先はマレーシアとシンガポール。厚生省によると、インドネシア人が渡航治療に費やす金は年間115億ドルだという。Frost and Sullivanの報告では、2008年にマレーシアの病院で治療を受けたインドネシア人患者の数は288,000人、シンガポールの病院で治療を受けたインドネシア人患者は2007年で226,200 人であった。インドネシア政府もメディカル・ツーリズム産業に参入するため、国内医療の改善を計画している。厚生大臣は現在、公立病院が国際機関JCIの認可を取得するための準備をしている。インドネシアにはJCIの承認を受けた私立病院が4施設(2010年にEka Hospital、Santosa Hospital 、Siloam Hospitals Lippo Village が、2011年にRS Premier Bintaro が認可済み)あるが、公立病院での認可はまだない。インドネシアはオーストラリアの近くに位置することから、オーストラリア系の私立病院も進出している。インドネシアでの生殖ツーリズム推進の動きは未だに弱い。インドネシア初の体外受精児は1988年に誕生した。現在は政府の認可を受けたIVFクリニックが国内に14施設、認可待ちクリニックが3施設ある。2008年でみると、インドネシアのIVF実施回数は1,500サイクルと、近隣諸国の中では少ない。シンガポールは2,500サイクル、マレーシア3,000サイクル、タイ4,000サイクル、ベトナム6,000サイクルとなっている。IVFクリニックには余力があるのだが、医師たちの多くは、生殖ツーリズムより、国内に生殖補助医療を普及させることの方に関心がある。また、ART規制の厳しさゆえ、外国人患者の多くは希望する処置を法的に受けられないので、近隣諸国で同様のサービスが提供されていることを考えれば、生殖補助医療の分野に関しては、インドネシアは外国人不妊患者の渡航先とはなりづらいであろう。

ガイドライン・法律

インドネシアのART規制は、近隣諸国に先んじて、中央政府や宗教当局、専門家たちによって取り組まれた。POGI(インドネシア産婦人科学会)によって1990年に裁可された最初のガイドラインは、国内の認可クリニックすべてに適用されている。厚生省は1992年に" Health Law No.23" を、1999年に" Regulation on the Implementation of Artificial Reproductive Technology Services" を出してARTを規制した。ARTを提供する者、ARTを受ける者、合法的行為が明記され、1998年以後はARTクリニックの承認の責任を厚生省が負うことになった。認可IVFクリニックは、妻が40歳未満の婚姻関係にある夫婦に対し、IVFやICSIを提供することが認められている。インドネシア・ウレマ評議会(Indonesian Council of Ulama、MUI)は、IVF技術がまだ国内になかった1979年に、すでに以下のファトワを出している。①婚姻関係にある夫婦の精子と卵子を使用するIVFは合法。②いかなる代理出産も違法。一夫多妻のケースでも、妻同士による代理出産は認められない。③亡夫の精子を使ったIVFは禁止。④婚姻関係にない男女の精子と卵子を使ったIVFは違法。 インドネシア社会の多元性を考えると、これらすべての規制は驚くべき速さと一致をもってまとめられた。イスラムの影響が強いインドネシアでは、ARTへのアクセスは婚姻関係にある夫婦に限定されるべきであり、独身者、同性愛者、40歳以上の女性がARTを受けられないことにも、強い反対はない。卵子提供、精子提供、代理出産も禁止されている。

インドネシアの生殖補助医療 関連年表
出来事
1979      6 インドネシア・ウレマ評議会が体外受精に関するファトワを発令
1988      5 Maternity Hospital Harapan Kitaでインドネシア初の体外受精児の誕生
1990   インドネシア産婦人科学会(POGI)がガイドラインを公表
1992   厚生省が“Health Law No.23”を出す
1999   厚生省がART規制法を出す
2009   厚生省が“Health Law No.36”を出す

 

代理出産

インドネシアの代理出産は" Law No.23 of 1992 on health" の16条と、" Regulation of the Minister of Health the number 73 year 1999 on the Implementation of Artificial Reproductive Technology Services" で禁止されている。婚姻関係にある夫婦間で、夫の精子と妻の卵子を受精させ、それを妻の子宮に戻すIVF以外は、認められない。また、Indonesian Ulema Council(MUI)のファトワにおいても、IVFは認めるが代理出産と配偶子提供は認められていない。


卵子提供

卵子提供・精子提供は法律で禁止。TMC fertility centerのように、精子バンクをうたう不妊治療センターもまれにあるが、これは外資系病院なので、利用するのはインドネシア人ではなくメディカルツーリストの外国人である可能性が高い。一方、隣国マレーシアでは配偶子提供が浸透しつつある。たとえインドネシアで禁止されても、精子提供、卵子提供をどうしても望むカップルには、マレーシアという選択肢がある。

インドネシアにおけるART治療サイクル数
  2009 2010 2011 2012
総治療サイクル 1,585 1,692 2,627 3,297

対象20施設(2012年)

PGD(着床前診断)

一般的に、遺伝的疾患の可能性がある場合のみ、PGDの実施が認められる。

宗教

ムスリムが85%を占めており、キリスト教は10-12%前後、その他が約5%。イスラム政党の中には、シャリア(イスラム法)を国法に盛り込んでインドネシアをイスラム国家にしたいと考える団体が根強く活動しており、キリスト教とイスラム教の対立は昔から頻発している。

社会的問題

正式な夫婦証明がないと病院での中絶手術が認められないため、未婚の女性が違法な中絶で命を落とすケースが後を絶たず、社会問題となっている。



(2013/09/5 last updated)
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