Commercialization of Assisted Reproduction and Reproductive Tourism in the Globalized World: Ethical, Legal and Social Issues.

China

メディカル・ツーリズム

2010年、中国は北京に世界最大規模の国際医療・療養総合医療施設「燕達国際健康城」を完成させた。これは中国で初めての民間企業(燕達集団)による医療施設開発であった。この医療拠点がメディカルツーリズムの推進を視野に入れたものであることはいうまでもない。以前の中国のメディカルツーリズムといえば、国内富裕層による先進国への渡航が主流であったが、現在は先進国から中国へ向かう流れが増え、メディカルツーリズムの目的国としても台頭してきている。 不妊渡航治療に関しては、裕福層が海外へ行くことが多い。もともと中国では、子供のアメリカ国籍取得を目的とした'maternity tourism'と呼ばれる海外出産が盛んである。不妊カップルがアメリカに不妊治療に行くことや、PGDによる性選択を海外で行うことは必然の現象であり、以前から多く報告されていた。しかしこれはあくまで富裕層の選択である。近年は不妊センターが増え、国内で治療を受けるカップルも増加している。

ガイドライン・法律

2001年に『人類補助生殖技術管理弁法(the Administrative Measures for Human Auxiliary Reproduction Technology)』が出される。第3条にて「人類補助生殖技術は医療機関により実施されなければならない」とした上で「配偶子・胚の売買を禁止」「代理出産の禁止」が規定された。 不妊治療センターは政府による認可制になった。同年、精子バンク規制法『人類精子庫技術規範(Human Sperm Bank Management)』も出されている。 しかし上記は医療者のための法律であり、実際の市場の取り締まりには至っていなかった。そのため2003年8月に「人類補助生殖技術規範(Ethical Principles of Human Assisted Reproduction Technology & Sperm Bank)」が公布され「いかなる組織や個人も、あらゆる形式で卵子提供希望者を募集しビジネス行為をしてはならない」とする条文が加えられた。政府は、一向に減らないネット上での代理母あっせんや精子の売買について、ペナルティーを強化するなどして再三警告しているが、仲介業者の活動は盛んになっている。 2003年、2006年とさらに規制が付け加えられたが(不妊センターのライセンスを2年ごとに更新するなど)、基本路線は変わっていない。

ART施設数

    1988年に体外受精が初成功し、1997年までの間に約10施設が誕生した。1998年〜2001年の間に約200施設となり、2002年〜2007年の間には、95施設及び10の精子バンクが政府に正式に認可された施設となった。現在は300施設を超えており(2013年12月時点で356施設)、30万サイクルを超えている。精子バンクは17箇所となっている。

 

中国の生殖補助医療 関連年表
出来事
   1981   中国初の精子バンクが設立される(湖南省)
   1982        初の凍結精子による人工授精成功
   1983   凍結精子バンクからの子どもが初めて誕生
   1988       3 北京大学第三医院で中国初の体外受精児の誕生
   1989       1 AIDで出産した夫婦が離婚した際、夫が人工授精への同意を否定し、裁判に
   1994      10 「母嬰保健法」公布
   1996       4 国内初のICSI児の誕生
   1996       北京大学第三医院で初めての体外受精型代理出産児が誕生する
   2001   衛生部省令「人類補助生殖技術管理弁法」(代理出産の禁止)
「人類精子庫管理弁法」公布 (後者の付属法令として、「人類補助生殖技術規範」、「人類精子庫基本標准」、「人類精子庫技術標准」、「実施人類補助生殖技術的倫理規範」)
   2003       8 「人類補助生殖技術規範」「人類精子バンクにおける基準と技術に関する規則」公布
   2008       8 江蘇省南京市で53歳の女性が体外受精による出産に成功
   2010       9 広東省の夫婦が代理母を使い8人の子どもを同時にもうける
   2013       8 中国衛生部と中国総後勤部によって、違法な生殖補助医療の取り締まり強化
   2015       1 広東省で違法な代理出産の取り締まり強化
   2015        準備されていた代理出産禁止法が白紙に
   2016       1 一人っ子政策の廃止が決定(2016年1月より)
   2016       3 中国の富裕層が日本で代理出産を依頼していることが報じられる

 

 

一人っ子政策

    中国の一人っ子政策は、1979年から開始された。2002年9月1日「人口及び計画生育法」が施行され、夫婦2人とも一人っ子の場合、第2子の出産が可能になるという地方政府の緩和政策を国が裏付ける形となった。これ以降、地域によって法的な緩和が始まる。2011年11月に河南省の条例改正を最後に、中国全省で条件付き第2子の出産が認められることとなった。2013年11月には、夫婦どちらかが一人っ子の場合、第2子の出産を認めると共産党が発表し、一人っ子政策の緩和がさらに進む見通しとなった。 2015年10月、急速に進む高齢化を緩和するため、一人っ子政策が廃止された。

 

精子提供・AID

AIDで生まれた子供の立場に関しては、1991年に最高裁が「AIDで生まれた子供は、すべての点で、AIDに同意し依頼した夫婦が自然に妊娠・出産した嫡子と同様の立場にある。婚姻法の中の、親と子の権利と義務に関する条項がそのまま適用される。」という声明を出している。 子供の「親が誰なのか知る権利」は、中国では認められていない。中国で支配的な儒教では「男子を産み家系を絶やさぬようにするのが人間の務め」という考えが根強く、AIDで生まれた事実を子供本人や周囲に知らせない傾向が強い。香港では、21歳に達していれば自分がAIDで生まれたのかどうか情報請求を検査することができるが、ドナーに関する情報は一切公開されないことになっている。 独身者が子供をもつ権利については「人類補助生殖技術規範」中で「独身女性はAIDで子供を持つことができない」と否定されている。養子縁組法6条と9条により、独身男性も独身女性も養子をとることは認められている。同性愛は中国で認められていない。 精子の売買は法律で禁じられているが、ドナーへの妥当な支払いは禁じられていない。認定を受けた精子バンクは国内11箇所にある。精子ドナーは、22歳から45歳までの健康な男性とされており、ドナーとなるのは、大学生が多い。ホームページの広告や口コミで集められる。ドナーの属性によって報酬は異なるが、3,500-4,000元(約7ー8万円)前後の報酬が支払われる。近親婚を避けるため、提供は、5人の女性に限られる。同性愛者や外国籍の人間は利用不可。


代理出産

中国は2001年に、代理出産に関わる医療行為を禁ずる法律を出したが、代理母やドナー、依頼者に対する規制は明確にされておらず、グレーゾーンのままになっている。実際には水面下で商業的代理出産は盛んに行われており、その状況に政府も見て見ぬふりをしてきた。2009年2月、代理母が強制的に中絶させられるという事件が起こったが、その後も、代理出産サービスを謳う中国のウェブサイトは増え続けている。監視を避けるため、サイパンやタイやインドに代理母を行かせて胚移植し、中国で子供を生ませる業者もいる。依頼者の精子で5-7人の代理母を同時に妊娠させ、男子以外の胎児を中絶するというサービスを提供するところもある。中国でどれくらい代理出産が実施されているのか、公式な統計はない。違法代理出産を一掃するため、代理出産禁止法が準備されていたが、一人っ子政策廃止を前に、白紙に戻された。外国の立法例を参考して、代理出産を禁止するよりは、解禁していく方向性が望ましいのではないかという議論も出てきている。

裁判例

代理出産に関して争われた裁判例として、2008年に南寧市の人民裁判所に持ち込まれたでもので、biological motherである代理母が、依頼者と代理出産の契約書を交わしたにもかかわらず、男児の引き渡しを拒んだもの。女性は150,000元をもらう約束で、依頼者男性と性行為をして妊娠した。判決は、代理出産契約は無効であること、婚姻法により、子供の親権は遺伝的父母が持つこと、どちらの親が子供と過ごすかは、子供の最善の利益に照らして決められることになった。結局、貧しい代理母ではなく安定した収入がある依頼者に子供は引き渡された。


卵子提供・PGD(着床前遺伝子診断)

胚の提供は禁止されている。商業目的での卵子提供は一切禁止されている。エッグシェアリングの方式で、不妊患者が別の患者に余剰卵を提供するケースのみ、認められている。しかし、採卵数が20個を超えなければ他の患者に提供できないなど、条件が厳しく、表面上、卵子提供はほとんど行われていないことになっている。一方、アンダーグラウンドでは、女子大学生を対象とした有償卵子ドナーの募集が、代理母の募集と同様、違法に行われている。優生的な見地からドナーの選別が行われ、より優れた資質を持つドナーへは高額の謝礼が支払われる。PGDは、医学的な理由がある場合のみ認められる。国内では、あらゆる性選択が禁止されているにも関わらず男女比の偏りが大きいことが社会問題となっている。その一部は、近年、海外での受精卵の選別によって行われていると推測される。

宗教

国教はなく、主な宗教は仏教、道教、イスラム教、キリスト教である。宗教信者数自体が1億人余りと総人口12億人に比して非常に少ない。国民の大半を占める漢人は現世利益的であり、複数の宗教の良いところをそれなりに信仰する傾向がある。

中国人による渡航治療

    一般国民にとって海外の情報に触れる機会は、一部の都市部を除いてはまだまだ少ない。しかし、今後の経済発展による富裕層の増大や、国際化の進展により、現在国内でアンダーグラウンドで実施 されている性選択や代理出産、卵子提供などを、海外で利用する人々が増えていく可能性がある。タイでの性選択を利用する中国人は着実に増加している。また、日本人が台湾で卵子提供プログラムを購入していることが報道されたが、中国にとっても、台湾は、卵子提供ツーリズムとして格好のホスト国といえる。言葉の面でも、人種的にも同質であるため、利用しやすい。一人っ子政策の緩和とも相まって、生殖ツーリズムの利用する側として中国が台頭していく可能性がある。

 

LGBTQ

中国では同性婚は認められておらず、代理出産などが認められても男女カップルに対してのみで、同性カップルには認められない可能性が高い。同性カップルは養子を取ることも禁止されている。



参考文献

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リンク


2001年『人類補助生殖技術管理弁法』  Link blank

2001年『人類精子庫技術規範』 日本語訳 (172KB)    Link blank

2003年『人類補助生殖技術規範』 日本語訳 (253KB)    Link blank









(2019/03/25 last updated)


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