Commercialization of Assisted Reproduction and Reproductive Tourism in the Globalized World: Ethical, Legal and Social Issues.

Hong Kong

メディカル・ツーリズム

2005年と2006年に大陸部住民による香港への「個人旅行」が解禁された際、経済的にも社会的にも福祉が充実しており、高い医療技術を持ち、アクセスも治安も良い香港は、メディカル・ツーリズムの格好の渡航先になるだろうと考えられた。しかしながら、そうした有利な条件にあるにもかかわらず、メディカル・ツーリズムを強力に推進する周辺国に比べ、香港の政府や民間セクターは特に積極的な施策をとってこなかった。民間セクターがツーリズムに消極的な理由としては、政府による支援が少ないこと、国内の医療費が周辺国に比べ安くないこと、国内の医療ニーズに対応するので精一杯であることなどが挙げられる。最近は香港政府もメディカル・ツーリズムに乗り出し、医療特区を定めて外国人投資家をつのるなど、前向きな姿勢を見せている。ただ、中国人の妊婦が香港で出産する出産ツーリズムは、以前から増加の一途をたどっており、毎年数万人の中国人妊婦が香港を訪れ、現地の産婦人科医療の飽和状態をもたらしている。政府は、中国本土で妊婦健診したのち予約登録を行って初めて香港で出産できる「予約登録制度」を2007年に定めるなどの規制をかけたが、2012年のベビーブームには抗議デモが行われるほどの問題となった。

法律

「人类生殖科技条例(Human Reproductive Technology Ordinance)」が2000年に制定され、改訂版が2007年に出されている。中国の規制とは独立した、香港の生殖医療技術の規制である。この法律で、人類生殖科技管理局(http://www.chrt.org.hk/)の設置が定められた。生殖補助医療の利用は婚姻カップルに限定されている。「生殖科技及胚胎研究實務守則」(最新版2013年)では、生殖技術の実施に関する規則がより細かく定められている。

香港年表
出来事
  1981   香港家庭計量指導會が精子バンクを設立、初めての人工授精が行われる
  1986         12 初の体外受精児の誕生
  1987   「科学協助人類生殖研究委員会」発足
  1993   委員会が最終報告書を提出
  1995   香港初のICSI児の誕生
  1995         12 「生殖技術臨時管理局」設置
  1997          1 立法局が生殖補助医療に関する草案を立案
  1998   「人類生殖科技篠例草案委員會」設立
  2000   「人類生殖科技条例」制定
  2001   「人類生殖科技管理局」設立
  2002         12 「生殖科技及び胚胎研究実務規則」公布
  2010         10 香港の大企業の社長息子Lee氏に、代理出産で三つ子が生まれ話題に
  2011          7 Victory A.R.T.Laboratryの胚取り違え事件
  2013   「生殖科技及び胚胎研究実務規則」2013年度版(最新)

 

代理出産

「人类生殖科技条例」の14,17,18条が代理出産関連の規制である。利他的代理出産のみ認められ、商業的代理出産は禁止(17条)。代理出産契約に強制力を与えない(18条)。また、代理出産において、依頼者夫婦以外の配偶子を使用することは禁止されている(14条)。 代理母は21歳以上の心身共に健康な女性で、代理母の適性は、代理出産サービスを希望する依頼者の主治医以外の医師が判断しなければならない(「生殖科技及胚胎研究實務守則」12条1-10項)。 裕福層の多い香港で商業的代理出産が禁止されたことで、アメリカの業者を通して代理出産契約を結ぶ香港人が増加した。2010年10月には香港の大企業Henderson Land Development社の社長息子であるPeter Lee氏がカリフォルニアの代理出産で三つ子の男子を得たニュースが報じられ、香港の禁止が海外の契約に適用されるのかどうかという問題に注目が集まった。

卵子提供

卵子提供は、匿名による無償提供が原則である。提供者に対する金銭的償還(補償)は全て必要経費に限られており、卵子提供者になるインセンティブが少ない。「生殖科技及び胚胎研究実務規則」には、提供者への経費の払い戻しについて細かく定められている。償還が認められるのは①配偶子・胚の採取、輸送、保管にかかった費用、②提供者の逸失利益のみ。またこうした経費や逸失利益の還付を提供者が要求する場合、請求書、領収書、銀行の収支報告書、給料明細書など証拠となるものを提供者自身が用意せねばならず、その還付額にも法的上限が付けられている。例えば、逸失利益はHK$380(US$48)まで、旅費は一律HK$300(US$38)などである。当然、香港ではこうした規制によって卵子提供者になろうとする者は少なく、卵子は不足している。知る権利についても法律で定められており、子供が16歳に達すれば、近親婚を避ける目的で、結婚相手と血縁関係があるかどうかを本人が確認することができる。また、提供者個人を特定しない範囲のドナー情報にアクセスすることができる(「人类生殖科技条例」33条)。ただし、この開示情報の範囲がまだ定まっていないため、33条の施行はまだ据え置かれている。

香港におけるART治療サイクル数
  2009 2010 2011
精子提供(DI含む) 13 21 38
卵子提供 40 83 72
胚提供 0 0 5
代理出産 0 0 0
すべてのIVF(ICSI含む) 1,783 4,016 4,924
凍結融解胚移植 985 2,435 3,115
夫婦間人工授精(AIH) 3,607 5,129 5,771
その他 28 51 64
総治療サイクル 6,403 11,631 13,874
       
ARTで生まれた子どもの人数 946 1,750 未公表
精子提供で生まれた子どもの人数 3 5 10
卵子提供で生まれた子どもの人数 16 27 24
胚提供で生まれた子どもの人数 0 0 2

(31施設)

 

性選択

PGDを含む、全ての性選択は禁止されている(15条)。ただし、重篤な遺伝病を避ける目的の性選択のみ認められる(医師2人の診断書が必要)。

出自を知る権利

配偶子提供、胚提供を用いた生殖補助医療についての情報は80年間保管される。実務守則には、配偶子提供または胚提供が行われた場合、カウンセラーがクライアントに対し助言すべきここととして、将来生まれてくる子どもに事実を明かすことが望ましいこと、そしてその子の心について考慮するべきこと、結婚する前に保管されている情報にアクセスする権利があることを告げることが望ましいこと、出産に至った場合は実施施設に報告すべきことが挙げられている。

宗教

中国系人口が大部分を占める香港では、仏教・道教に儒教的要素が混ざったものが生活に深く浸透している。香港で働く外国人(フィリピン人など)を中心に、キリスト教が普及している(約10%)。

その他

2011年、香港の有名クリニックVictory A.R.T. Laboratoryが、胚を間違えて移植し、胎児二人を中絶する事件が起きた。人類生殖科技管理局は、この取り違えは人によるミスで、システムの不備ではないとし、措置は特に講じなかった。

参考文献

Ernest Hung Yu Ng,et al.
Regulating Reproductive Technology in Hong Kong.
Journal of Assisted Reproduction and Genetics 20(7) 281-286 (1):2003

Lo Ping-CHIEUNG
EthicalReflections on Artificial Reproduction Policies in Hong Kong
Ethics in Business and Society 181-195:1996

Link

人类生殖科技条例(Human Reproductive Technology Ordinance)(中国語)Link blank

生殖科技及胚胎研究實務守則(Code of Practice on Reproductive Technology and Embryo Research)(中国語)Link blank

 



(2014/11/07 last updated)
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