Taiwan
メディカル・ツーリズム
台湾政府は2007年より台湾国内の病院と提携し、メディカル・ツーリズム市場の開発を開始した。アジアでは中国の富裕層をターゲットにしたビジネス競争が激化しているが、言語面で有利な台湾は中国人の呼び込みに成功、振興しつつある。2011年における台湾のメディカル・ツーリスト到着者数は2万人近くに達した。台湾のメディカル・ツーリズム市場は、2012年から2015年にかけてCAGR(年平均成長率)で7%拡大すると予測されている。 台湾が得意とするのは高度先進医療である。特に生体肝移植手術においては、5年生存率は米国よりも高い。高度先進医療のほかにも、観光がてら手軽に健康をチェックできる人間ドックや、美容関係の施設などは国際的評価も高く、その費用も日本の1/3程度となっている。
ガイドライン・法律・法案
生殖補助医療に関するものとしては、1986年に衛生署から出された「人工生殖技術倫理指導綱領」、1999年の「人工協助生殖技術管理辦法」、2007年に公布・施行された「人工生殖法」がある。人工生殖法は、精子・卵子の無償提供を認める(8条3項、ただし8条4項で実費等の補償を認めている)が、胚提供や代理出産を認めていない。精子ドナーは20歳以上50歳未満、卵子ドナーは20歳以上40歳未満(8条1項)。一度に移植できる胚の個数は4個まで(16条6項)。 また現在、利他的代理出産を認める方向で「代孕生殖法」草案の準備が進められている。
年 | 月 | 出来事 |
---|---|---|
1981 | 台湾初の精子バンクが設立された | |
1985 | 4 | 初の体外受精児の誕生 |
1986 | 「人工生殖技術倫理指導網領」制定 | |
1994 | 行政院衛生署省令「人工生殖補助技術管理規則」公布 (のちに失効) | |
1995 | 「施行人工協助生殖技術医療機構評価要点」公布 | |
1997 | 代理出産を禁止する方針を取ってきた衛生署の立場を覆し、新衛生署長・詹啓賢氏が代理出産容認の意見を明言 | |
2001 | 衛生署「人工生殖法草案」立案 | |
2004 | 衛生署の委託を受け台湾大学社会学部が代理出産に関し公民共識会議を招集 | |
2007 | 生殖補助医療法「人工生殖法」 | |
2009 | 代理出産法案 | |
2012 | 9 | 「代孕制度公民審議會議」が結論報告を提出。衛生署が再び代理出産法案作成に向けた議論を開始 |
2012 | 62歳の女性が卵子提供で出産 | |
2013 | 11 | 日本のメディアで台湾での卵子提供がとりあげられる |
2012 | 12 | 国民衛生署で、代理出産合法化の見通し |
代理出産
2007年「人工生殖法」第2条3項には、生殖補助医療を受ける夫婦の妻は自分の子宮で子供を妊娠・出産しなければならないことが明記されており、代理出産は禁止されている。しかし、法的な抜け穴として、アメリカ、インドやタイなどに渡航して代理出産する不妊カップルもいる。2008年8月、台湾政府がバンコクに拠点を置く代理母斡旋業者のBabe 1001に対し、台湾向けの中国語の宣伝をインターネット上に掲載しないよう求めたこともあった。
2012年、台湾の前副大統領である連戰氏の長女、連惠心が米国での代理出産によって3つ子を得たニュースは大きく報道された。「代孕生殖法」草案に関する議論が現在行われており、将来的に条件付きで利他的代理出産が認められるようになる可能性も出てきている。
台湾の代理出産に関する議論 Link
卵子提供
「人工生殖法」は、配偶子自体の売買を認めないが、精子・卵子提供者に支払われる補償、いわゆる「栄養費」を認めている(8条4項)。規定では、卵子ドナーはNT$50,000-100,000(US$1,500-3,000)の栄養費を受け取ることができるが、その卵子で子供が一人でも生まれたら、それ以降提供することは一切できない。逆に、卵子で子供が生まれない限り、提供回数に制限はなく、何度でも提供することができる。
東アジアで卵子提供に対する相当額の金銭的補償を認めているのは唯一台湾だけである。これは、似通った人種的、身体的特徴を持つ東アジア諸国(中国、台湾、香港、マカオ、韓国、日本)からの卵子提供ツーリズムが加速する可能性を示唆している。法律は、外国人への卵子提供、あるいは外国人からの卵子提供に関して特に対応していないため、そこが法の抜け穴になる可能性がある。
2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | |
卵子提供サイクル n(%) |
205 (2.6) |
194 (2.3) |
252 (2.7) |
316 (2.7) |
318 (2.2) |
508 (3.2) |
621 (3.6) |
836 (3.7) |
精子提供サイクル n(%) |
123 (1.5) |
154 (1.8) |
180 (1.9) |
213 (1.9) |
235 (1.6) |
253 (1.6) |
298 (1.7) |
312 (1.4) |
総治療サイクル n(%) |
7,941 (100) |
8,354 (100) |
9,266 (100) |
11,513 (100) |
14,645 (100) |
16,041 (100) |
17,393 (100) |
22,684 (100) |
※衛生福利部国民健康署「人工生殖施行結果分析報告」より (37施設による)
出自を知る権利
人工生殖法の29条に、配偶子提供によって生まれてきた子ども、またはその法的代理人は、婚姻相手が近親に当たらないかどうかの確認を主管機関に求めることができるとされている。 ドナー情報は管理されているが、子どもがドナーの個人情報の開示を求めることはできず、出自を知る権利は認められていない。
PGD(着床前診断)
胎児の性別判定を理由にしたPGDは人工生殖法で禁止されている。遺伝病を防ぐ目的のPGDのみ認められている。(第16条)
宗教
仏教と道教の信者が93%を占める(仏教と道教の混交が広く見られ、多くの人が自身を仏教徒であり道教徒と考えている)。キリスト教4.5%、その他2.5%。
社会
1950年代後半から台湾の出生率は急激に下がり始め、2010年台湾はTFR(合計特殊出生率)0.89を記録し、この世界的にも最低の出生率は、国内でも社会問題として扱われた。政府は" Children are our most precious treasures (孩子~是我們最好的傳家寶)" のスローガンを掲げ、児童手当、出産補助金、減税優遇などの出産奨励政策を打ち出した。 また台湾社会には「不孝有三、無後為大(子孫を残さないことは、最も親不孝)」という諺があり、現在でも父系重視の家族規範が不妊女性に強烈なプレッシャーをかけている。 生殖補助医療は、少子化対策においても不妊女性への救済策としても国民から高い関心を集めている。
日本からの渡航治療
台湾には日本の医大出身の医師が比較的多く、最新医療を格安で受けることできるため、日本から台湾への医療観光は増えていくものと思われる。病院側も、日本語を話せるスタッフを常駐させたり、日本の病院と提携を結んだりするなど、日本患者の呼び込みを意識した戦略をとっている。 生殖補助医療に関しては、彰化キリスト教病院国際医療センター、台安医院生殖医学センターなどが日本人の受け入れ態勢を整えている。
参考文献
加藤茂生 2003「子どもを持つという幸福-台湾における代理出産と父権主義-」『アジア新世紀4 幸福』:181-194.
張 瓊方 2003 『台湾における生殖技術への対応(1)ー医療とジェンダーポリティクス;「人工生殖法」立法をめぐって』
(CLSS Etudes No.1)
張 瓊方 2004 「優生へのまなざし--台湾の生殖技術の実践を例として」『社会と倫理』 (17):67-76.
張 瓊方 2005「台湾における生殖技術の応用」 市民科学 (6):13-15.
Boom Chin Heng 2007 Taiwan (Republic of China) legitimizes substantial financial remuneration of egg donors: implications for reproductive tourism in East Asia. Expert. Rev. Obstet. Gynecol 2(5): 545-547.
ウ・チャリン(小田義起・加藤恵津子監訳) 2008「台湾における男性不妊症、生殖補助技術ュー(ART)とジェンダー・ポリティクス」田中かず子編『アジアから視るジェンダー: ICU21世紀COEシリーズ第7巻』:205-239.
Yun-Hsien Diana Lin 2013 Lesbian Parenting in Taiwan: Legal Issues and the Latest Developments. Asian-Pacific Law & Policy Journal 14(2):1-27.
Link
人工生殖法 Link
人工生殖技術倫理指導綱領 Link
台湾の代理出産に関する改定案 Link
(2017/02/02 last updated)